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第16回コンサートのプログラムに掲載された、のりずみさんとムジマちゃんの対談企画です。音楽のルーツ、ムジマとの出会い、音楽観、プログラムの聞きどころ、趣味の話までたっぷりと語らっております。

 

もしかしたら彫刻家?!

ムジマちゃん(以下ム):音楽との出会いはいつ頃ですか?

のりずみさん(以下の):父親が音楽の教師だったから、気がついたら家にピアノがあったので小さい頃からピアノを習っていました。チェロを始めたのは中一から

ム:チェロは自分から弾きたいと言って始めたんですか?

の:笑。本当はチェロがやりたかったわけじゃないの。その頃、日本に来ていたベルリンフィルを見ていたら、ホルンがやりたいって急に思っちゃって。親に言ったら、金管楽器は将来食っていくのが大変だから、似た音域のチェロはどう?とかって言われて笑。

ム:初めて聞きました。それで、やがて音大に行こうって思ったわけですね。

の:なんとなくそうなっちゃったんだけど、国立音大の附属高校から大学に上がるときに、美大の彫刻科に行くかどうかすごく迷ったんです。でも結局楽な方に行ってしまった。

ム:じゃあ、もしかしたら美大に行っていたかもしれない……?! ムジマの団員は美大出身者が多いので、別の形で会っていたかもしれないですね!

 

偶然の出会い

ム:団員の多くが学生時代に所属していた東京五美術大学管弦楽団(以下ゴビカン)でも、長く指揮を振っていますね。

の:ゴビカンとの出会いは僕がまだ大学を出て間もない頃。武蔵野美術大学の前を車で偶然通りかかったら、トロンボーンの音がしたことです。美大からトロンボーンっていうのがフレッシュに感じて、暇だったからそのまま入って行っちゃったの笑。その時に「プロの指導を受けたい」と頼まれて、知り合いの指揮者を紹介したのが始まりでした。僕がトレーナーとして行くようになったのは1987年からかな。

ム:のりずみさんがゴビカンで指揮を振り始めたのが1997年、その後わりとすぐにムジマができたんですね。

の:うん。2000年頃には出来ていたかな。嬉しかったよ。「卒業してものりずみさんと一緒にやりたいからオーケストラ作ります!」って言われたときは。

ム:わー、素晴らしすぎる。ありがとうございます!

の:ありがとうございます。

ム:のりずみさんは古典派音楽への造詣が深く、ムジマでも古典派の曲を演奏する機会が多いですが、古典派のオーケストラとして始まったんですか?

の:そもそもは結成当時の編成でできる曲っていうことで古典派の曲を演奏したんです。何回か古典派の曲を続けたから、もうそういうオケみたいになっちゃった。

ム:え、そういうこと?笑

 

プロ、アマの区別はない

ム:のりずみさんをお招きしての練習では、自分たちがイメージしていたよりも音楽が生き生きとしたものになっていくのが実感できます。

の:うーん。僕はこうしろって命令しているわけじゃなくて、普段から曲の情景について感じるままを言っているだけなんです。その結果としてみんなが「なるほど」って思ってくれていることが大事なんですよ。

ム:じゃあ古典派だからということでもなく、のりずみさんの指揮ならなんでも面白くなるということですね。

の:そうだといいんだけどね。 僕はほんとはもっと新しい時代の音楽も好きなのね。でも古いものを調べると、新しいものの見え方がすごく新鮮になってくる。

ム:のりずみさんが曲のイメージを伝える例え話はとてもユーモラスです。指揮を振っておられる団体はプロも含めていくつかありますが、相手によって話の内容も変わるんですか?

の:それは全く一緒。相手がプロだろうがアマチュアだろうが僕は全く区別していない。僕たちは音楽が専門だけど、皆の専門分野では我々はアマチュアなわけだから、君たちは下みたいな考えは全くない。逆にもっと皆の専門分野について教えてほしいし、仕事を手伝わせてほしいくらいです。

 

チェロ奏者として

ム:のりずみさんのご専門であるチェロを弾く機会は最近あるんですか?

の:あるよ。受難曲とか宗教曲の仕事が割と多いかな。

ム:受難曲などの通奏低音は、レチタティーヴォのところで歌に合の手をいれるのが難しそうですね。

の:そうだね。これまでで特に印象に残っているのは、東京シティフィルのバッハ《ヨハネ受難曲》演奏会に通奏低音として参加させてもらったときかな。その時の演奏がとても好評で、指揮者のヘルムート・ヴィンシャーマンさんがすごく喜んでくれて、熱い抱擁をされたのが嬉しかったな。

ム:わー、すごい!

 

作曲当時の響きを大事に

ム:のりずみさんは古典派音楽への造詣が深いですが、バロックや古典派音楽の道を選択したのは音大生の頃からでしょうか?

の:そうです。僕が大学1年生のとき、アーノンクールがまだチェロ弾きだった頃、ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス(アーノンクールを中心に1953年に設立された古楽器オーケストラ)を聴きに行って、バロックってこんなに面白いんだって思ったの。それでバロックや古典派音楽、古楽器に興味を持った。

ム:へぇ、そうなんですね。ムジマでも金管楽器はあえてバルブを使わずにナチュラル楽器のような吹き方をしたり、弦楽器も木のミュートや開放弦を多く使ったりしています。これらの奏法は演奏上どういう効果があるのでしょう?

の:そうすると例えば金管楽器は自然倍音しか出ないので平均律じゃない和音が作りやすくなる。弦楽器の場合は木のミュートの独特な音色を大事にしたいし、開放弦をいっぱい使えば、音色の自然なバラつきを出しやすくなる。

ム:音色の自然なバラつき……

の:曲ごとの調による響きの違いが際立つということ。今のモダン楽器は、平等主義的な社会の価値観の影響で音の凸凹を嫌って、あえてバラつきが少ないようになっている。少なくとも我々が取り上げている時代の音楽家は、音色がバラつく当時の楽器を想定して曲を書いていた。それを知って演奏するのと、知らないのとでは表現が全然違う。

ム:ああ、そうですね確かに。じゃあ、古典派音楽をやっている私たちは、そういうちょっとした変化も感じられるような感覚をちゃんと身につけた方がいいですね。

の:うん、もっと自然に触れたほうがいい。一人一人の持っているイメージっていうのはそれぞれ違うと思うんだけど、たとえば、演奏のイメージを「夜の星明かりしか見えないような感じ」って例えたら、それはある程度イメージの共有ができて、そこで何か生まれるよね。だから、できるだけそういう自然にちょっとでも接した方が演奏の表現は広がるような気がする。

 

プログラムの聴きどころ

ム:[皇帝ティートの慈悲]は冒頭でトランペットとティンパニが活躍します。

の:ファンファーレ的なところは、コンサートの始まりに良いかな。冒頭の勇ましいティンパニはモーツアルトでは珍しいから、聴きなれている人には逆に新鮮かも。モーツアルトのそつなく、職人仕事的な面も見られるね。

ム:ハイドンの交響曲第99番も技術的な工夫やユーモアが随所に感じられますね。

の:いわゆるザロモンセットのうちの1曲として作曲されたものだけど、やっぱりセットの1曲1曲みんなキャラクターが違っていて、すべての曲を聴くとハイドンの引き出しがいっぱい見えてくる。99番は奇しくも1楽章の行進曲的な要素がジュピターと同じなので、そういう意味では組み合わせとしては面白いかな笑。2楽章のメロディがジュピターのそれと似ているのも偶然だけどね。ジュピターみたいなオペラ的な要素は少ないけど、純器楽曲として単純に聴いていても演奏していても楽しい曲。ハイドンの場合は、創意工夫がモーツアルトとはまた違う、職人としての面白さがある。時々奇妙なこともやるけど、あんまり行きすぎないバランス感覚がある。ベートーヴェンの交響曲第1番って後の曲に比べれば、すごく端正に作ってあるじゃない?だけど、ハイドンは初演を聞いて「ちょっとやり過ぎじゃないの?」って思ったらしいのね。それくらいバランス感覚を大事にしていた人らしい。

ム:モーツアルト交響曲第41番[ジュピター]は、一般的には荘厳で煌びやかな曲とされていますね。

の:どうしても世間の人たちは、壮麗で複雑な4楽章だけをクローズアップしがちだけれど、それは3楽章までのいろいろな出来事が、4楽章で宗教的な体験を経て昇華するという、[魔笛]の物語を思わせる展開があるから。また、K.541のアリエッタ [御手に口づけ](機智縦横のフランス人がいささか低能な男に皮肉な恋の助言を与える内容)のメロディをそのまま使ってるという点でも、もう疑いもなく喜劇的な内容っていうことなんだけど、モーツァルト最後の交響曲ということもあってか、なぜか世間ではそこを結び付けないというかさ……。

ム:モーツァルトは交響曲第39番、40番、41番の3曲をセットで販売しようと思っていた節があるそうですね。

の:うん、でもそれぞれキャラクターがまったく違っていて、39番は序奏付きの1楽章を持つオーソドックスなスタイルながら、当時最新の楽器だったクラリネットの音色を大きく生かした点が画期的。40番は暗い情念に包まれ、部分的に当時の調性音楽の枠を逸脱しようとさえしている問題作。一方41番はとにかくオペラ・ブッファ的、喜劇的な要素が強いんだね。先のアリエッタの大々的な引用だけでなく、4拍分も空白のある、文字通り間の抜けたユーモラスなメロディ、突然の沈黙の後の意外な展開など、喜劇的な場面に溢れているよ。そして3楽章までに出て来たメロディたちが、グレゴリオ聖歌に由来するという「ドレファミ」音型に支配される4楽章にさりげなく織り込まれているのがミソなんだよ。うーん、そういう意味でジュピターのユーモラスでちょっとカリカチュアライズされてる側面をもっと表に出したいなと思っています。

ム:ジュピターは、のりずみさんが音楽監督をされているオーケストラ・シンポシオンで2004年に録音(CD発売2006年)されていますね。その頃と曲の解釈に変化はありますか?

の:うん、基本は変わってない。ただ、あからさまにじゃなくて、もう少しさりげなくできないかなって思うことはあるけどね。それは年とともに……笑。あと、和音が短調に傾いて暗くなる場面、ああいうところの魅力っていうのは、当時よりもっと感じられるようになったと思う。

 

自然は音楽の源泉

ム:のりずみさんは多趣味ですが、最近凝っていることはなんでしょう。

の:時間があれば蛾の写真を撮りに出かけています。日本には7000種近くも蛾がいるんだけど、2500種類くらいは撮ったかな。あっけらかんと明るいものより、微妙に渋いものが好きなんです。子供の頃に興味があったのは普通にカブトムシとかクワガタとかだったけど、年を取ってきて、蛾の渋い魅力っていうのがだんだんわかってきたというか。よく見るとすごく味わい深い色だったりするものが蛾の仲間には結構多いんです。

ム:子供の頃に裏山で遊んだ原体験というのが、演奏や指揮にも生きていたりするのでしょうね。

の:僕の生まれ育った家のすぐ裏が雑木林で、小さい頃から虫に馴染んでいたのでそれが原体験としてあって、結局そこに帰ってきたみたいな感じです。自然の中に出ていって観察していると、すごくインスピレーションに繋がる。音楽の表現のね。虫だけじゃなくて、例えば真っ暗闇の中でフクロウやヨタカの声だけが響いているとか、春にどんどん生き物が増えてくる感じとか。

ム:2500種類も撮影されたということは、ご自宅の周りではもう撮るものがなさそうですね。

の:近所の場合はもうほとんど網羅しちゃったので、同じ種類の虫を何度も撮影して定点観測みたいになっています。最近は蛾以外のものもちょっと……。今興味があるのはカメムシとかクモとか。

ム:えー、カメムシ?!

の:面白いんだよ。種類によっていろんな色があるし、あと匂いも。悪臭とは違う独特な匂いなんだけど、フルーティーな甘い匂いがするのもいたり。

ム:フルーティーなカメムシ……!え、と、最近はもう飛行機の写真撮ったり、プラモデルを作ったりはしないんですか?

の:うん、今は芸術作品以外は人間が作ったものはあんまり……。一昨年「シン・ゴジラ」を見て久々にゴジラをフルスクラッチしたくなっちゃったんだけど、それを始めると他のことをする時間がまったくなくなって、蛾も見れなくなっちゃうから……笑

ム:プラモデルではなくフルスクラッチ!さすが彫刻家を志しただけのことはありますね笑。

の:若い頃は音楽家とプロの怪獣造形作家を両立していた時期もあったからね笑。

 

怪獣映画と音楽……?

の:「シン・ゴジラ」みたいな怪獣って人間にとっては許されざる、忌嫌われる存在なんだけど……、そういう存在の悲しさみたいなところに魅力があると思う。単純に正義と悪、二つの対立じゃないところがある作品のほうが面白い。

ム:さきほどの蛾の話とも通じるものがありますね。

の:そうだね。ガンダムだって、連邦軍からしたらジオン軍は悪い連中なんだけど、ジオン軍にはジオン軍の戦う理由があって、それぞれが正義だと思ってやっているわけでしょ。そういうところで話に深みが出てくるんだよね。そういうところがモーツァルトの曲が持つ色んな味を出してくるっていう特徴とすごく通じるような感じがしています。一面的じゃなく多面的なものの見方をしたほうが、色々な意味で面白いのかなと思うのね。

ム:うんうん、なるほど。

の:まったく明るいだけの世界っていうものはないし、暗いだけの世界もないわけだから。微妙に明るさが変化する間を、我々は行ったり来たりして生きてるのかなって思ったりね。その辺の微妙な変化を、素晴らしい芸術はある一面ですごくよく表現していて、そういうところに魅力を感じるんですよ。

ム:色々な面や変化を表現したい、という欲求が強いのですね。

の:うん。そういう微妙な明るさや、色彩の変化にもっと敏感になりたいなと思いながら音楽に向き合っています。良い作曲家っていうのは、その辺のことにすごくいろんな工夫をしていて味わいが深い。簡単にいえばね。

 

トレーナー陣とはあ・うんの呼吸

ム:いつも指導していただいているトレーナーさんたちのチームワークが抜群なのもムジマの特徴だと思います。事前にみなさんで打ち合わせなどしているのでしょうか? 

の:特に打ち合わせとかもしてない。チームワークが良いのは、プロの音楽家として一緒に仕事をする機会が多いからだよ。オーケストラ・シンポシオンでも共演しているし、音楽や人に対する考えも近いから、その場その場でやっても「ズレ」っていうのはほとんど起きない。指導だけじゃなくて、一緒に演奏するなかで議論したりもするし、共演関係とまったく一緒なの。

ム:私たちは技術面ではそこまでいかないとしても、そういう信頼関係を築けるようになるといいな。

の:よく「もっと上手い、プロも真っ青なアマオケにしたい!」とか言って、「あいつ下手だからやめさせろ」とかってそういう風になっちゃう団体もあるけど、そういうのは絶対に嫌ですね。

 

ムジマとの関わりについて

ム:最後にムジマに16年間ずっとお付き合いいただいていて、ご自身の心境の変化などはありますか?また、のりずみさんから見て、私たちの変化や成長したところなどがもしあったらお聞きしたいです!

の:やっぱり一緒に歳をとってきたなということかな笑。音楽の仲間がそれぞれ自分のパレットを増やしてきて、一緒に歩んできた感はすごくあるよね。みんなの影響で色々学ばされることもすごく多いし。欲を言えば、みんながそれぞれの専門でやっていることをもっと見たいなって思うこともあるけどね、さっきも言ったけど笑。

ム:これからも一緒に歳をとっていけたら嬉しいです!長い間お話させていただきありがとうございました。

の:こちらこそありがとうございました。今回も良い演奏会にしましょう!  

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